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一方通行

比率 1:2:0

台本を使う前に【利用上のルール】をお読みください。

蓬原 直克(♂) 故人。事故で死亡。(本編にセリフなし)

桐沢 真緒(♀) 
一之瀬 賢太(♂)
岡成 芹那(♀)

賢太:訃報は突然訪れた。幼馴染の直克が不慮の事故で死んだのだ。

   二度とあいつと一緒にバカやったり遊んだりすることができない──

   そんな実感はなく、一緒につるんでいた真緒と芹那は会場に姿を現さなかった。

   俺とて葬儀もどこか上の空だ。

賢太:葬儀から数週間が過ぎた。

   悲しみは癒えないものの、どうやら芹那は自宅で塞ぎこんでいるようだから

   心配になって尋ねることにした。

賢太:おーい、芹那。いるんだろ?

◆ドアノブを回す

賢太:開いてんじゃねぇか。不用心だな。入るぞー。
芹那:……。
賢太:部屋もぐちゃぐちゃだし、ちゃんと食って寝てんのか?
芹那:う…ん……。
賢太:いきなり直克がいなくなっちまったショックはわかる。

   けど、自分の生活を放棄したってあいつは生き返ったりはしねぇよ。
芹那:わかってる。わかってるわよ。
賢太:ほら、差し入れ買ってきたから一緒に食おうぜ。
芹那:なんで……
賢太:え?
芹那:なんだ賢太はそんな元気なの!? 悲しくないの!?
賢太:悲しいさ。
芹那:だったら!
賢太:でもな。
芹那:え?
賢太:直克の性格知ってるだろ?
芹那:……。
賢太:あいつは底抜けに明るい楽観主義者だった。
芹那:そう…だったね。トラブルがあっても『なんとかなるべ』なんておどけてたりして。
賢太:そうそう。んで、ちゃんとなんとかしちゃうんだよな。
芹那:チャラ男っぽく見えるけど、やるときはやるっていうか。締めるところは締めてたよね。
賢太:ああ。行動力といいなんだかんだスペック高かった。
芹那:ね……。
賢太:少しは落ち着いたか?
芹那:うん。
賢太:ほれ。おめぇの好きなパンとか飲み物も買ってきてる。
芹那:まさかお酒も?
賢太:さすがにそれは控えた。
芹那:そっか。ううん、飲みたい気分じゃないからいいんだけどね。
賢太:ははは。

◇間

賢太:なぁ……。
芹那:どうしたの?
賢太:いや……。
芹那:なによ。さっきまで、あんだけよく喋ってたのに。歯切れ悪いわね。
賢太:あのな。
芹那:うん。
賢太:お前が直克のこと好きだったってのは知ってる。
芹那:あ…うん……。
賢太:でも……。
芹那:……。
賢太:俺は……。
芹那:ねぇ。
賢太:ん?
芹那:今はそれ以上言わないで。賢太の気持ちに気づいてないわけじゃないの。
賢太:……。
芹那:嬉しいんだけど、でもね。私はやっぱり……。
賢太:そっか。そうだよな。ごめん。
芹那:ううん。差し入れありがとね。嬉しかった。少しは立ち直れた気がするの。
賢太:それならよかった。んじゃ、俺、帰るわ。
芹那:うん。またね。
賢太:明日からはちゃんと人間らしい生活するんだぞ。
芹那:そうする。

◇間

芹那:どうしてこのタイミングなんだろう。いくらなんでも早すぎるよ。

   私は直克のことが好きだった。その気持ちはまだ続いてる。

   生き返ることがないってわかっていても。手を握ることもできない。

   そして、賢太の気持ちもわかってた。

   ただ、まだ応えられるほど、気持ちの整理ができてない。

◇間

SE 着信音

真緒:誰かと話したくない。
真緒:芹那から……。

芹那:あ、出てくれた。
真緒:……。
芹那:大丈夫?
真緒:うん……。
芹那:もう、心配したんだよ。メッセージ送っても全然返信こないんだから。既読もつかないし。
真緒:ごめんね。
芹那:ううん。私もそうだったから。
真緒:え?
芹那:実は、私もこの間まで魂の抜け殻みたくなってたの。
真緒:……。芹那は……直克くんのこと好きだったもんね。
芹那:うん……でもね、今は立ち直ったってほどじゃないけど、少しは前を向けるようになったよ。
真緒:そうなんだ。芹那は強いな。私は……。
芹那:そんなことないよ。賢太がね。
真緒:え?
芹那:賢太が励ましに来てくれたの。
真緒:そうなんだ……。
芹那:すごく嬉しかった。
真緒:うん。賢太はそういうところあるからね。
芹那:ちょっとかっこいいなって思っちゃったよ。
真緒:ちょっとじゃなくかっこいいよ。
芹那:そうだったね。真緒は賢太のこと好きだし。
真緒:うん。
芹那:大丈夫。私はまだ直克のことが好きだから。盗ったりはしないよ。
真緒:……うん。
芹那:だから、まだ直克がいなくなっちゃったのはショックだけどね……。
真緒:ごめんね。
芹那:え?
真緒:ううん、なんでもない。直克くんがいないのに、そんなに気を遣ってくれるの、悪いなって。
芹那:気にしないで。真緒もさ、少しは元気だそ。
真緒:うん……。
芹那:賢太に声を掛けとくね。たぶん真緒も賢太に励まされて、少しは元気になると思うよ。

   私がそうだったもん。きっとそれ以上だよ。
真緒:そう……かな。
芹那:とにかく、ちゃんと食べて寝るようにしないとだよ。
真緒:うん、ありがと。

◇間

真緒:不安……暗闇に閉じ込められている感覚。

   抜け出せる気がしない永遠の牢獄。私の気持ちは……。

◇間 SE ドアを開ける音

賢太:よ。
真緒:え……?
賢太:芹那もだけど、お前も不用心すぎるぞ。鍵開けっ放し。
真緒:あ……。
賢太:ほれ。差し入れ。
真緒:ありがと……。
賢太:芹那の言うとおりだな。随分雰囲気変わってビビったぞ。
真緒:そう?
賢太:おしゃれが大好きで、整理整頓好きとは思えねぇ惨状だ。
真緒:うん……。
賢太:直克のことは残念だったけど、前を向いてみないか?
真緒:そう……だね。
賢太:真緒は気づいてたかどうかしらねぇけど、あいつはお前のこと……。
真緒:知ってた。
賢太:え?
真緒:気づいてたよ。
賢太:そっか。
真緒:というか、告白されたことあるもん。
賢太:ほぉ~俺に報告もなく、そんなことあったんか。
真緒:うん。
賢太:ま、あいつらしいっちゃあいつらしいか。
真緒:……。
賢太:元気出せよっていうのが難しいのはわかる。俺だってまだショックだよ。

   ただな、あいつだったら、たぶん『元気だせよ』っておどけてくると思う。
真緒:そうなのかな……。
賢太:あいつの性格、知ってんだろ?
真緒:うん。明るくて前向きで。
賢太:そうそう。だからさ……。

◇真緒、賢太に抱き着く

賢太:ちょ、おい……。
真緒:おねがい……少しの間だけでいいから……
賢太:……。

◇ 間

真緒:私ね、不安なの。
賢太:何が?
真緒:事故だったとはいえ、直克くんが死んじゃって。
賢太:俺もショックだったよ。
真緒:好きだって言ってくれたの、悪い気はしなかったんだ。
賢太:まぁ……そうだよな。
真緒:私は……賢太くんのことが好きだった。
賢太:え?
真緒:だから彼の告白に応えることができなくって。
賢太:そう……だったんだ。
真緒:うん。だから、こんなことになっちゃって、私……。
賢太:複雑な気持ちになるのは解るよ。
真緒:……。

◇真緒、賢太を強く抱きしめる

賢太:……。
真緒:賢太くんが芹那のこと好きなのは知ってる。
賢太:え……あ……。
真緒:お願い……。
賢太:……。

賢太:(真緒は潤んだ目でこちらを見つめていた。薄着だった真緒の肩口がはだける。

    扇情的な仕草は俺の理性を眠らせていく。)

◇間(状況が許せるのであれば濡れ場)

真緒:ありがとう……。
賢太:いや……。
真緒:後悔してる? 好きでもない人を抱いて。
賢太:そんなことは……。
真緒:全然振り向いてくれなかったんだもん。だから……嬉しかった。
賢太:……。

◇SE 乱暴にドアが開く音

芹那:あなたたち……。
賢太:芹那……ちょ、これは。
芹那:別に私たち、付き合ってるわけじゃないんだし、言い訳をする必要はないんんじゃない?
賢太:……。
真緒:どうして芹那ちゃんがここに……。
芹那:あなたの様子を見に来たからに決まってるじゃない! で、来てみたらこれよ!
真緒:ごめんね。
賢太:なんか……ごめん。
芹那:なんであなたが謝るのよ。誘ったのはこの女でしょ?
真緒:……。慰めてほしかったの。

   それに……芹那ちゃんは賢太くんの気持ちに応えてなかったし、なんでそんなに怒るの?
芹那:……!
真緒:胸に手を当てて考えてみてよ!
芹那:え?
真緒:私、知ってるのよ。
芹那:な……何を?
賢太:いきなりどうしたんだよ。落ち着けって。
芹那:賢太は黙ってて!
賢太:……。
芹那:あの日。直克が死んだ日、あなた会ってたでしょ。
真緒:……。
芹那:そして事故が起きた。
賢太:おい、何を言っているんだ。
芹那:こいつはね、直克を殺したって言ってんのよ!
真緒:私は! 殺してなんかない!
芹那:おかしいと思ったのよ。私が誘ったら、断られて。大事な用があるって。
賢太:直克はそれで真緒と会っていたのか?
芹那:そうよ! 諦めきれないって言って、プレゼント買ってまた告白するって! 悔しかったわよ!
真緒:どんなに迫られたって、直克くんの気持ちには応えられない。私は賢太くんが好きだから!
賢太:……。
芹那:だからって!
真緒:友達かもしれないけど、好きでもない人に迫られても困るの!

   あなただって前に愚痴ってたじゃない!

   賢太くんは友達で、そういう関係にはなれないから困ったって!
賢太:芹那……。
芹那:そうかもしれないけど! でも殺さなくても!
真緒:殺そうとしたわけじゃない! 事故だったのよ!
賢太:え……。
芹那:やっぱり!
真緒:やっぱりって……鎌をかけたのね! ひどい!
芹那:ひどいってなによ! あんたが殺したようなもんじゃない!
真緒:そんなつもりはなかったわよ!
芹那:好きな人を殺された気持ち、わかる?
賢太:おい……ちょっと……。
芹那:挙句に賢太まで奪って。
真緒:賢太くんのこと、迷惑だって言ってたのはあなたじゃない!
芹那:迷惑とは言ってないわよ! 勝手に決めつけないで!
真緒:別に私と賢太くんがどうなろうが、あなたには関係ないでしょ!
芹那:よくもまぁ、そんなこと言えるわね! だいたい、賢太も賢太よ!

   好きでもない女を抱いて! これだから男って!
賢太:……。
真緒:言い過ぎよ!
芹那:あんたにも、私の気持ちを味あわせてあげる!

◇芹那 賢太ににじりよる

賢太:じょ……冗談だよな?
芹那:賢太は逃げないわよね。私のこと、好きだもの。
真緒:そんなことさせないわ!(平手打ち)
芹那:やったわね!(平手打ち)
真緒:そっちこそ!(平手打ち,または取っ組み合い)

◇間

賢太:真緒は俺のことが好きだった。俺は芹那のことが好きだった。

   芹那は直克のことが好きだった。そして直克は真緒のことが好きだった。

   このロープの上にあるヤジロベーのような関係性は、

   ひとつ綻びが生まれてしまったがために、連鎖的に崩壊を起こした。
賢太:俺は二人を止めることができなかった──

   エスカレートした二人がどうなるのか、怖くて見ていられなかったのだ。

   あんな光景を目の当たりにし、心が死んでいく感覚を噛みしめながら、

   服を着てその場から離れるしかできなかったのだ。

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