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リベリカの事件簿#2

比率 3:2:0

台本を使う前に【利用上のルール】をお読みください。

リベリカ(♀):新しく赴任してきた判事。争いごとを裁くのが役目。
バラコ(♂):リベリカの補佐をする獣人の書記官。落ち着いた性格。
トパーシオ(♂):作曲家のリザードマン。腑に落ちないことがあるからバラコに相談する。
コニロン(♀):お店の女主人。ウガンダのギルドに所属している。
ウガンダ(♂):コニロンのお店を含めてギルドをまとめ上げているオーガ。

バラコ:人間と魔族との争いは、それぞれの神が和解することで終結した。
    しきたりや慣習の異なる2種族が共存するために、

    さまざまなことが整備されていった。

    そして馴染みの薄かった法律というものも定められることになり、

    もともとの領主とは別に、その地方の争いごとを解決する裁判官のような制度も設けられた。
    こういった職業に就くためには専用の試験をパスする必要がある。

    私は、書記官という判事の補佐をする試験を受け、この地に赴任した魔族の獣人だ。
    判事としてやってきたのは、ちょっと抜けているようにも見える人間。

    しかし、実はかなりの切れ者ということが最近わかってきた。

    しっかりと補佐をしていけるのか、少々不安だ。

コニロン:もうお話することはありません。

     これ以上,お答えすることは控えさせていただきますね。早々に立ち去るがよい。
トパーシオ:ちょっと! 
コニロン:お引き取り願えますか? 他のお客様のご迷惑になりますので。
トパーシオ:わかりました。

SE ドアの閉まる音

 

ウガンダ:どうかしたのか?
コニロン:いいえ,なんでもありませんわ。

     小うるさいのが直接文句を言いに来ただけ。

     適当に相手をしてさしあげていたけれど,面倒になったから門前払いいたしました。
ウガンダ:特に問題はなさそうか?
コニロン:ええ。
ウガンダ:なら,いい。

(間)

トパーシオ:はぁ……
バラコ:おや,どうしたんですか? 随分疲れているように見えますけど。
トパーシオ:あ,バラコさん。
バラコ:もしよかったら,悩みを聞きますよ。

    もちろん,できることは限られちゃいますけど。
トパーシオ:ありがとうございます。

      ちょうど相談しようと思っていたところなんですよ。
バラコ:立ち話もなんですし,どうです? どこかのお店にでも入りますか?
トパーシオ:あまり他の人に聞かれるのもアレなんで,うちでもいいですか?

      夕食くらい作りますよ。
バラコ:これは嬉しいですね。トパーシオくんの手料理は美味しいですし。
トパーシオ:いやいや,そんなことは。
バラコ:一度リベリカさんにも味わってもらいたいくらいです。
トパーシオ:リベリカさんって,あの? ちょっと抜けてそうな新人判事さん?
バラコ:ははは。たしかにそう見えるかもしれないですけど,

    あれでいて優秀ということが最近わかってきました。
トパーシオ:へぇ……

(間)

バラコ:ごちそうさまでした。やはり美味しいですね。
トパーシオ:お粗末様でした。
バラコ:さて,本題に入りましょうか。
トパーシオ:はい。
バラコ:何があったのですか?
トパーシオ:最近できたお店なんですけど,そこは自由に演奏できる場所があるんですよ。
バラコ:ああ,あの。
トパーシオ:バンドとか演奏家だけではなくて,

      それこそ作曲をする人にとっても憩いの場になる……というのがウリみたいなんですが。
バラコ:ほほう。それははじめて聞きました。

    たしかに,今までこの街にはそういった場所はありませんでしたからね。

    聞いている分には良さそうですけど。
トパーシオ:耳触りはすごくいいのですが。
バラコ:何か問題でも?
トパーシオ:作詞とか作曲をやってみようっていう人も,気軽に参加できるのはいいんです。
バラコ:敷居が低いというのは大事ですからね。
トパーシオ:自分で作った詩や曲を書いたノートとかをそのお店に置いておくことができて,

      誰でも見たり演奏してみることができるんですよ。
バラコ:へぇ……面白い試みですね。
トパーシオ:僕もいくつか詩や曲のノートを置いてみたら,知らない人が演奏してくれたり,

      その演奏で盛り上がったりしているのを見るのは嬉しかったんですが。
バラコ:「が」って,納得してないことでもあるんですか?
トパーシオ:それがですね……

(回想)

トパーシオ:僕の譜面を使った演奏会はいいんですけどね。
コニロン:あら? どうかしましたか?
トパーシオ:あのお店の中でならともかく、全然違う場所でやるなんて聞いてないですよ。

コニロン: 別に問題があるとは思ってないわよ?
トパーシオ:勝手に知らないところで使われるなんて聞いてないですよ!

      人の作品でお店の集客とかしないでください!
コニロン:だって、注意書きに書いてあるじゃない。
トパーシオ:だからって、酷いですよ。
コニロン:ちゃんと貴方が作曲したってパンフレットには書いたわよ?
トパーシオ:そりゃ書いてありますけどね。
コニロン:あら、そのパンフレット。なんだ、聞いてくれてるんじゃない。
トパーシオ:これは知り合いから借りたんです。

      それに、微妙に僕が作ったのと違ってて、妙なアレンジがされてたって言ってましたよ。
コニロン:より多くの人に楽しんでもらえるように、こちらで改良させてもらったわ。
トパーシオ:他の人も文句を言ってるんじゃないですか!?
コニロン:残念ながら、貴方くらいのものよ。

     みんな、自分の作品を広めてくれて嬉しがってるわ。
トパーシオ:どうだか。これを貸してくれた知り合いも憤慨してましたよ。

      自分に都合のいい人からの意見しか耳にしてないだけじゃないですか?
コニロン:失礼ね。
トパーシオ:お金を払って作詞作曲をお願いされた人もいるって噂もあります。

      不公平じゃないですか。
コニロン:何のことかしら。よくわからないわね。

     そういったことはウガンダさんに訊いてみないと。
トパーシオ:とにかく、勝手にお店以外で使うのはやめてください。

      注意書きは読みましたけど、あんまりです。
コニロン:ちゃんとお読みになっているのなら、わかっててノートを置かれたんでしょう?
トパーシオ:だけど!
コニロン:もうお話することはありません。

     これ以上,お答えすることは控えさせていただきますね。早々に立ち去るがよい。
トパーシオ:ちょっと! 
コニロン:お引き取り願えますか? 他のお客様のご迷惑になりますので。
トパーシオ:わかりました。

(間)

バラコ:なるほどねぇ。その注意書きというのは、どういうものなんですか?
トパーシオ:これです。書き写してきました。
バラコ:ふむ……たしかにこれは。ちょっとお借りしてもいいですか?
トパーシオ:え、あ、はい。
バラコ:リベリカさんと相談してみますね。
トパーシオ:! ありがとうございます!
バラコ:まぁまぁ。

 

(間)

 

バラコ:今日の分は終わりましたね。
リベリカ:お疲れ様。さ、早く帰ってシャワー浴びたいわ。
バラコ:シャワーとかブルジョワですねぇ。そんな機械、そうそうないですよ?
リベリカ:いいでしょ~。
バラコ:ところで、少し見ていただきたいものが。
リベリカ:なによ。あ、また誰かの困りごとを拾ってきたのね?

     真面目というかなんというか。面倒なこと増えるし、やめて欲しいんだけどなぁ。
バラコ:まぁまぁ。知人が困っていたものですから。
リベリカ:しょうがないわねぇ。

 

◆バラコ、リベリカにトパーシオの話をまとめたものを見せる

 

リベリカ:これは?
バラコ:話をまとめたものです。資料もつけてあります。
リベリカ:真面目というよりクソ真面目ね。まったく……
バラコ:すいませんね。
リベリカ:どれどれ……

 

(間)

 

リベリカ:流れはわかったわ。で、問題の注意書きっていうのは用意してあるの?
バラコ:こちらです。
リベリカ:さすが……用意周到というか。
バラコ:お褒めにあずかり光栄です。
リベリカ:……褒めてるのかしら? まぁいいわ。

     なになに~「注意書き ノートを置くときは、盗作をしたものはダメです」。当たり前ね。
バラコ:そこはね。
リベリカ:「ここに置かれたノートをお店が勝手に編集したり

      謝礼を払うことなくお店の外で使っても文句は受け付けません」。これはちょっと……
バラコ:はい。他にも気になるところがいくつか。
リベリカ:んー、一応資料は調べておくわ。
バラコ:ありがとうございます。
リベリカ:いいことバラコ、これはツケとくからね。
バラコ:承知しました。何を要求されるかビクビクしておきます。
リベリカ:よろしい。

 

(間)

 

リベリカ:できたわ。これをお店に届けてちょうだい。
バラコ:はい。読み上げた方がいいですか?
リベリカ:どっちでもいいわ。
バラコ:はい。
リベリカ:バラコ、なにか企んでない?
バラコ:滅相もございません。
リベリカ:どうだか。

 

◆お店 SE ドアの開く音

 

コニロン:いらっしゃいませ。あら、はじめてのお客さんかしら。
バラコ:失礼します。
コニロン:堅苦しいわねぇ。ここはお酒と音楽を楽しむ場所。気楽にしてね。
バラコ:……。
トパーシオ:……。
コニロン:あら、貴方もいたのね。また文句を言いにきたのかしら?
トパーシオ:いえ、バラコさんの話を聞いてみたいと思いまして。
コニロン:? 一緒に飲むなら歓迎するわよ。
バラコ:申し訳ありませんが、そのつもりで伺ったのではありません。
コニロン:というと?
バラコ:これはリベリカさんからの書状です。読み上げますね。
コニロン:?
バラコ:「ウガンダ様 ノートを置かれた人のことを考えると、

    お店で自由に使うことはともかくとして、

    それ以外で使用するときは作詞や作曲をした人に了解をとってからにするべきなので、

    お店の注意書きを書き換えてください」
コニロン:は?
トパーシオ:そのとおりだと思います。

      僕がバラコさんに相談をしたんです。

      リベリカさんがこういう文書を作ってくれたみたいで、嬉しいですよ。
コニロン:なにこれ。そんなこと急に言われたって困ります。
バラコ:とにかく、この文書をお渡ししますので、

    1か月後までにお答えをお待ちしていますね。

    では、失礼します。
コニロン:ちょ、ちょっと待ってよ! なによこれ。

 

◆SE ドアの閉まる音

 

トパーシオ:ありがとうございます。やっぱり僕の感覚は間違ってなかったんだって。
バラコ:いえいえ。とりあえず待つことにしましょう。
トパーシオ:はい。

 

(間)

 

コニロン:いきなり言われても、困るのよねぇ。
ウガンダ:どうかしたのか?
コニロン:いえ、ちょっとね。
ウガンダ:厄介なことか?
コニロン:結構。
ウガンダ:話してみろ。
コニロン:これなんですよ。先ほど渡されました。
ウガンダ:これはリベリカ嬢からか。
コニロン:ええ。
ウガンダ:なになに……貴殿はこのお店だけでなく、

     ギルドをもって広く事業をされています。

     お店に置かれたノートを自由に使えるようにするだけで十分であり、

     他のところでノートを置いていった人の許可なく勝手に使うことは、

     やりすぎなのではないでしょうか。

     必要な時に個別に使ってもいいか尋ねれば済む話です。

     勝手に改変したりタダで好きに使うことはやりすぎなので、

     お店の注意書きを書き換えるようお願いします……だと?
コニロン:そんなこと言われても、ですよね。
ウガンダ:うむ。それにしても、どうしていきなりこんなものがうちに。
コニロン:それがですね、ノートを置いていったリザードマンがいるんですが、

     文句を言いにきたんだすよ。
ウガンダ:何故だ?
コニロン:お店でみんなに使ってもらうのはいいけど、勝手にお店の外で使うなって。
ウガンダ:そう注意書きにあるのをわかってて、だろ? それこそ、言いがかりではないか。
コニロン:そうなんですよねぇ。
ウガンダ:店の外で使ったことを知ったからなのか?
コニロン:さぁ。ただ、あれは誰でも聞くことはできましたし。
ウガンダ:まったく。ただ放置してもろくなことにならないだろうし、

     ちゃんと返答はしておかんとな。
コニロン:どう書かれるおつもりですか?
ウガンダ:まぁ、理屈を連ねればわかってもらえるだろう。
コニロン:お忙しいのに、申し訳ありません。
ウガンダ:まったくだ。

 

(間)

 

リベリカ:ねぇ。
バラコ:どうされました?
リベリカ:この前のやつ、届いた?
バラコ:はい。先ほど。
リベリカ:どれどれ、ちゃんと書き換えてくれたのかしら……

 

◆封を破る音

 

リベリカ:はぁ……そうきたか。
バラコ:?
リベリカ:困ったわね。さっさと直してもらって終わるかなと思ったんだけどな。
バラコ:反論のような感じできてるんですか?
リベリカ:まぁ、おおざっぱに言うと、そんなところね。
バラコ:なんと。まさか言い返すとは思ってもいなかったですね。
リベリカ:ええ。仕方ない。また書いておくから渡してきてくれる?
バラコ:かしこまりました。

 

◆SE ドアの開く音

 

コニロン:いらっしゃ……あら、貴方なの? また書状を届けにきたとか?
バラコ:はい。
コニロン:はぁ……ウガンダ様。
ウガンダ:おう、どうした。
コニロン:例のがまた来てます。
ウガンダ:ああ、君がリベリカ嬢か? いや、たしか人間だったはずだが、どうみても獣人。
バラコ:私はリベリカさんの補佐をしているバラコという者です。以後、お見知りおきを。
ウガンダ:あまりお見知りおきしたくないんだがな。で、何用かね。
バラコ:再び、リベリカさんからの書状をお持ちしました。
ウガンダ:この前、返事はちゃんと書いたじゃねぇか。

     うちはたしかに店以外にも、みんなに本というものを知ってもらったりとか、

     いろんなことしてるギルドでもあるわけだ。

     ちゃんとギルド本部に来たら、俺が何をやってるかなんてすぐわかるし、

     勝手に改変とかする予定もねぇって。
バラコ:しかし、実際に改変されたという話も耳にしております。

    ですから、リベリカさんもそれを踏まえて文章をしたためていらっしゃるかと。
ウガンダ:他人事のように言うなよ。おめぇが持ってきたんだろうが。
バラコ:私は届けるように申し使っただけですので。
ウガンダ:ったく、面倒だな。

     だいたい、ギルドっていう地位を利用して注意書きを押し付けてるとか言われてもなぁ。
リベリカ:あら、理不尽なことを書いたつもりはないわよ?
ウガンダ:!? リベリカ嬢?
リベリカ:はじめまして、ウガンダさん。
コニロン:申し訳ありません。まさか直接来るとは思わなくて。
ウガンダ:まぁいい。
リベリカ:そこに書いてあるとおりよ。
ウガンダ:書いてあるとおりって……
リベリカ:お店がうっかりしてたせいで、

     置かれたノートを使った演奏とかで

     作詞とか作曲とかをした人が不愉快な思いとかをしたときでも、

     わずかなお金で勘弁してくれっていうのもどうかと思うわ。
ウガンダ:待ってくだせぇ。うちは場を提供してるだけなんですぜ?

     そんなこと言われたって。
リベリカ:過去の資料を読み漁る限り、場を提供してるって理由で許されるとは限らない。

     場合によっては、多額の賠償金を払いなさいってあったわよ?
ウガンダ:ええ!?
リベリカ:とにかく、注意書きをちゃんと直してくださいね。

 

◆ドアの閉まる音

 

ウガンダ:うぬぬ……
コニロン:どうしましょう。
ウガンダ:おめぇは黙ってろ!
コニロン:は、はい!

 

(間)

 

トパーシオ:そんな流れだったんですね。
バラコ:ええ。ただ、これは長期戦になりそうな臭いがします。
トパーシオ:僕たちの気持ちを汲んで変わればいいんですけどね。
バラコ:どうでしょうか。
リベリカ:ま、こちらの言うとおりに変わらなかったら、手はあるわ。
トパーシオ:そうなんですか?
リベリカ:私の上官に裁いてもらうのよ。
トパーシオ:!? そんなことができるんですか?
リベリカ:ええ。私にはそういう権限もあるの。
トパーシオ:はぇ……すごいんですね。
バラコ:すごいかどうかはわかりませんが、どこかで決着はつくはずですよ。
リベリカ:なんか、貴方が言うと微妙に腹立たしいわね。
バラコ:申し訳ありません。
トパーシオ:待つしかないんですかね。
リベリカ:ええ。でも、放っておくつもりはないから、安心して。
トパーシオ:ありがとうございます。

 

(間)

 

バラコ:さてさて。どんな展開が待ち受けているのでしょうか。

    先は長そうです。その間に別の厄介ごとが持ち込まれそうなので、

    そちらを解決しつつ……でしょうかね。
 

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