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リベリカの事件簿#1

比率 2:2:0

台本を使う前に【利用上のルール】をお読みください。

リベリカ(♀):新しく赴任してきた判事。争いごとを裁くのが役目。
バラコ(♂):リベリカの補佐をする獣人の書記官。落ち着いた性格。
ティピカ(♀):花屋の魔法使い。ロブスタに代金を支払ってほしいと主張している。
ロブスタ(♂):鍛冶屋のオーク。花は受け取ったが注文した覚えはない。

バラコ:人間と魔族との争いは、それぞれの神が和解することで終結した。
    しきたりや慣習の異なる2種族が共存するために、
    さまざまなことが整備されていった。
    そして馴染みの薄かった法律というものも定められることになり、
    もともとの領主とは別に、その地方の争いごとを解決する裁判官のような制度も設けられた。
    こういった職業に就くためには専用の試験をパスする必要がある。
    私は、書記官という判事の補佐をする試験を受け、この地に赴任した魔族の獣人だ。
    判事としてやってきたのは、ちょっと抜けているようにも見える人間。
    しっかりと補佐をしていけるのか、少々不安だ。

 

バラコ:今日も1件持ち込まれていますよ。
リベリカ:どんな内容なの?
バラコ:んー、商品を納めたのに代金を払ってくれないというやつですね。
リベリカ:結構単純な感じじゃない?
バラコ:どうでしょうね。お互いに主張が食い違っているというか。
リベリカ:この字は貴方っぽいけど、貴方が聞き取って書いたんじゃない?
バラコ:はい。そうですよ。二人でみえて、それぞれ言いたいことをまとめました。
リベリカ:まじめねぇ。書類にまとめてから来なさいって言えばいいのに。
バラコ:決まりですから。書類がなかったとしても受け付けはするという。
リベリカ:はぁ……まぁいいわ。まだ二人がいるなら、早速始めましょう。

ティピカ:お初にお目にかかります。
     最近花屋をはじめた魔法使いのティピカと申します。
ロブスタ:俺はこの地で長いこと鍛冶屋をしているオークのロブスタだ。
リベリカ:お二人は、バラコがまとめたこの書類に書いてあることをそのまま主張しますか?
ティピカ:はい。
ロブスタ:はい。
リベリカ:じゃ、さっそくいろいろ尋ねたいと思います。
     ティピカさんは注文された花をロブスタさんに届けたけれども、お代を払ってくれない。
     そうですね。
ティピカ:はい。店を尋ねてきて、花束を作って届けてほしいと言われました。
     なんでも奥さんの誕生日プレゼントだとか。
ロブスタ:ちょっと待てよ!
リベリカ:ロブスタさんは、少し待っててね。
ティピカ:ごついおっさんがいきなり花屋に来たから、
     ちょっとびっくりしちゃったけど、プレゼントと知って納得しました。
リベリカ:なるほど。
     で、ロブスタさんはそうじゃないということが
     書類にまとめられていますが、そうなんですか?
ロブスタ:ああ。いきなり鍛冶場に花束が送り付けられてきてよぉ。
     最初は挨拶代わりなのかな、とか、
     この前腕前を表彰されたから、そのお祝いかなと思ったけど、
     お代の請求されて驚いたぜ。
ティピカ:ちょっと! なんでそうなるのよ!
ロブスタ:おめぇこそ、いきなり送り付けて金払えってなんだ? 
     送り付け商法とかいう新手の詐欺みたいなやつか?
ティピカ:なんですって!
バラコ:二人とも落ち着いてください。言い争うところではありませんよ。
リベリカ:そういうこと。
     見事に二人の主張が食い違っているみたいだけど、なにか証拠とかないの?
ティピカ:証拠?
バラコ:たとえば発注書とかそういうものですよ。
ロブスタ:俺は発注書を書いた覚えなんてねぇよ。
     仕事柄石炭とか素材を注文することはあるけどよぉ、
     そんときゃちゃんと発注書を書くようにしてるんだぜ?
ティピカ:花屋は発注書で管理するっていうことはないです。一見さんが多いっていうのもあるけど。
リベリカ:納品書とかは?
ロブスタ:受け取ってねぇなぁ。
ティピカ:嘘よ! ちゃんと花束と一緒に渡してるはずだわ!
ロブスタ:は? 請求書の間違いじゃねぇのか? んなもんなかったぞ!
ティピカ:捨てちゃったんじゃないの? がさつそうだし。
ロブスタ:なんだと!
バラコ:さっきも言いましたけど、お互いに向かって叫んでも意味がありませんよ。
    判事であるリベリカさんに向かって言わないと。
    それに、相手を侮辱するような言い方も感心できませんよ。
リベリカ:そうね。自分の言い分が正しいなら、まっとうに主張すれば済む話でしょ。
バラコ:以後お二人は気を付けてくださいね。
ティピカ:はい。
ロブスタ:はい。
バラコ:それにしても、平行線というか真っ向からぶつかってる感じですね。
    ちょっと整理してみてはどうでしょうか。
リベリカ:ええ。まずはティピカさんからにしましょう。
ティピカ:さきほど言ったことですべてですが……
リベリカ:さあ、それはどうかしら。
     まず最初に確認したいんだけど、ロブスタさんはお店に来て注文されたんですか?
ティピカ:え? ええ。
リベリカ:注文書や注文を受けた時のメモとかはある?
ティピカ:届けちゃったので請求書の控えくらいしか残ってないです……
リベリカ:なるほど。控えはあるんですね?
ティピカ:あります。念のために持ってきています。
リベリカ:バラコ、受け取ってくれる?
バラコ:はい。これですね?

 

◆バラコは「請求書(控)」と書かれた紙を受け取った。

 

リベリカ:それ、甲第1号証ってメモしておいて。
バラコ:わかりました。
リベリカ:どれどれー。たしかに請求書の控えみたいね。
     花束1つっていう、割と雑な書き方だけど。
ティピカ:ざ、ざつ……
バラコ:こういった物証があるなら、最初に提出していただければよかったのに。
ティピカ:そんなのわかんないんだもん。
リベリカ:仕方ないわよ。
     何が証拠になるかなんて考えて、日々過ごしてるわけじゃないんですから。
バラコ:はぁ……
ティピカ:そこに書いてあるとおり、花束の注文を受けて、それを届けたんです。
リベリカ:ふむ。とりあえずわかったわ。じゃ、次はロブスタさんね。
ロブスタ:何度も反論したかったぜ。
ティピカ:ちゃんと待っていてくれてありがとう。
     ロブスタさんは、突然花束が届いたって言ってたわよね。
ロブスタ:ああ。いつものように仕事してたら、配達の兄ちゃんが届けてくれたんだ。
     最初はプレゼントかなにかかと思ったんだけど、
     よく見ると請求書ってのも一緒に入ってた。
リベリカ:注文した覚えはないんですよね?
ロブスタ:なんで俺が花束なんざ注文しなきゃならんのだ。柄じゃねぇよ。
リベリカ:受け取った花束はどうしたんですか?
ロブスタ:鍛冶場に置いてたら熱にやられちまうだろ? だから家に持ち帰ったよ。
リベリカ:奥様に渡したとか?
ロブスタ:いや、娘に。俺は花のことはよくわからんからな。
     それにあいつは花とか好きだから、喜んでたよ。
     誕生日プレゼントにもなって、一石二鳥とか思っちまった。
リベリカ:バラコ。
バラコ:はい。ロブスタさんは娘に渡したということは、しっかり書き留めています。
リベリカ:ティピカさん。
ティピカ:は、はい!
リベリカ:さっき貴女はロブスタさんが奥さんへのプレゼントとしてって言っていましたね。
     間違いないですか?
ティピカ:え、ええ……たしかそんなことを言っていたと思っていたのですが、
     もしかしたら娘さんへのプレゼントだったかもしれません。
リベリカ:なるほど。ロブスタさん。
ロブスタ:おう。
リベリカ:あなたは花屋には行ってないんですよね?
ロブスタ:そのはずだけど、そりゃ出歩いたときに近くを通ってたかもしれねぇが、
     そんなことまで覚えてねぇよ。
リベリカ:なるほど。あくまで、贈られたものだとして受け取ったんですね。
ロブスタ:うむ。頼んだ覚えがねぇのに花束が届いたんだ。
     こっちの方が老舗ってか古いんだし、新参者が挨拶としてって思ってたからな。
ティピカ:なによそれ!
バラコ:んん!(咳払い)
ロブスタ:そうじゃねぇってんなら、最近耳にしたことのある送り付け商法ってやつかと。
     勝手に商品を送り付けて代金をせびるっていう、せこい犯罪のやつな。
ティピカ:はぁ!? いい加減なこと言わないでよ! あ! そうよ!
リベリカ:どうしたの?
ティピカ:メッセージカード! 私メッセージカードを添えたわ。
リベリカ:どんなことを書いたの?
ティピカ:「おめでとう」って。
リベリカ:ううん……少し休憩時間にしましょうか。考えをまとめたいし。
バラコ:わかりました。お二人はその間別室でお待ちいただけますか?
ティピカ:はい。
ロブスタ:おう。

 

バラコ:これ、どっちなんでしょうね。どっちも嘘ついているようには見えないですし。
    でも、花束の代金を認めるか認めないか、どちらかですもんね。
リベリカ:そうなのよね。
バラコ:どっちが嘘をついているんでしょうか。
リベリカ:うーん、嘘をついていないかもしれないわ。
バラコ:どういうことですか? そうじゃないと筋が通らないと思うんですけど。
リベリカ:オーク族はある程度まで成長したら、あとは一生同じような見た目じゃない?
     もしかしたら人違いっていう可能性もあるかなってね。
バラコ:だったら花束を受け取らないようにも思うんですけど。
リベリカ:普通はね。そのあたりは性格なのかもしれないわ。
バラコ:うーむ。もしそうだとしたら、ややこしいことになりますね。
    資料をご用意いたしましょうか。関係ありそうなものは目星がついていますが。
リベリカ:そうねぇ、念のためにお願いしちゃおうかしら。
     あ、ちょっと待ってね。今メモをするから、それについて重点的に。
バラコ:承知しました。

 

 

バラコ:どれどれ、メモには……やはり、そのあたりを気にされていたんですね。最初はすごく単純だなと思っていたし、どっちが嘘言っているのかってところを気にしてはいたけれど。軽い感じだけど、さすがは判事といったところでしょうか。どちらの主張が通るのか、傍聴をしているみなさんは、検討がつきましたか?

バラコ:お二人とも、お待たせしました。
ティピカ:で、結論は出たのかしら? 当然私の言い分が通ると思ってるけど。
ロブスタ:おめぇ何言ってんだよ。俺は知らねぇっつってんだろ?
ティピカ:はぁ? いい加減黙りなさいよ。魔法で黒焦げにするわよ!
ロブスタ:んだとぉ!
バラコ:ティピカさん。そんなことをしたら犯罪になっちゃいますよ。
    ひと昔前と違って、魔族を傷つけることも罰せられます。
ティピカ:う……
リベリカ:ティピカさん。
ティピカ:ひ…ひゃい!
リベリカ:安心して。実際に黒焦げにしたわけじゃないんだし、その点は目を瞑るわ。
ティピカ:ほっ
ロブスタ:罰しちまえばよかったのによぉ。こんな面倒な女。
バラコ:ロブスタさんも。
ロブスタ:へぃへぃ。
リベリカ:ティピカさんはロブスタさんをよく見てください。
ティピカ:え? はぁ……
リベリカ:お店に来たのは、本当にロブスタさんですか?
ティピカ:え? こんな感じの方でしたけど。
リベリカ:もしかしたら、ロブスタさん本人じゃないかもしれないですよ。
ティピカ:そんな……オークであるのは間違いなかったんですよ。
     それにメッセージも添えたし、受け取ってるじゃないですか。
リベリカ:オーク族は見た目が似ています。
     もしかしたら、ロブスタさんの代わりに買いに来たってことは考えられませんか?
ロブスタ:俺は、誰かに使いを頼んだ覚えはねぇぞ?
ティピカ:ロブスタさんの代わりにとは聞いてないなぁ。
ロブスタ:もしかしたら、息子が店に行ってるかもしれん。
     自分の娘の誕生日に花束のひとつでも贈ってやれよって、前に言ってた気がする。
リベリカ:では、貴方は息子さんに花屋に行って買ってくるようにお願いしましたか?
ロブスタ:んなこたしてねぇよ。
     そりゃ、貰った花束はありがたくプレゼントにさせてもらったけどよ。
ティピカ:結局プレゼントしてるじゃない。
     それに息子さんだったかもしれないけど、間違いなく注文してたのよ?
     お金、払ってよね。
リベリカ:二人とも、お互いに譲り合って解決する気はある?
ロブスタ:ねぇな。払うつもりはない。
ティピカ:ないわね。払ってもらうわよ。
リベリカ:……よし。
ロブスタ:ん?
ティピカ:どうしたんですか?
リベリカ:結論が出ました。これから書類にまとめるので、それまで待機しててくださいね。

リベリカ:判決を言い渡します。ティピカさんの請求を棄却。
ティピカ:ええ! なんでよ!
ロブスタ:うっし。
ティピカ:なんで! どうしてなの!
リベリカ:理由もまとめてあるわ。バラコ、読み上げてちょうだい。
バラコ:はい。まず、ロブスタさんが注文をしたかどうかについて検討しました。
    発注書だとか注文書といったものは見つかっていないですし、
    ロブスタさんは否定されています。
    ティピカさんが言われている「注文された」という言葉には証拠がありません。
ティピカ:そんな!
リベリカ:もちろん、ロブスタさんの「注文していない」というのも証拠はないわね。
ティピカ:だったらなんで。
リベリカ:こういうとき、お金を払ってと請求している側が証拠を見せないといけないの。
ティピカ:そんなの知らないし。
バラコ:途中で、注文書やメモはありませんか? などとちゃんと訊いていますよ。
ティピカ:うぐ……
バラコ:ただ、ロブスタさんは贈られたものを受け取っています。
ロブスタ:え、確かに受け取ったのは間違いねぇけど……ダメだったんか?
バラコ:いいえ。あくまで贈られたものだと思って受け取られたんですよね?
ロブスタ:ああ。だってそうじゃねぇか。いきなり渡されたんだぜ?
リベリカ:そう。注文したのではなく、贈与だと思って受け取った。
     しかも、注文して買ったっていう証拠もない。
ティピカ:でも、たしかに注文はあったんですよ。
     請求書の控えだってあるじゃないですか。メッセージカードだって。
バラコ:ええ。それにティピカさんの主張は、あやふやなところもありますが、
    注文を受けたという点だけはブレていませんでした。
ティピカ:だって、本当に……
バラコ:ただ、メッセージカードの「おめでとう」では、何に対してなのかわからないです。
    もしかしたらロブスタさんに対して、
    その腕前を表彰されたことをティピカさんがお祝いしたのかもしれないです。
ティピカ:そんなつもりは、まったくないのに……
バラコ:ここでひとつの疑問が出てきます。ロブスタさん以外が注文をした可能性です。
ロブスタ:だからオーク族の話をしてたんか。
リベリカ:そういうこと。
ロブスタ:ただ、俺はお願いした覚えはねぇぞ。
ティピカ:私も、ロブスタさんの代わりになんて言われて注文受けてはないわ。
リベリカ:ええ。だから、ロブスタさんの代理人として注文したという可能性はなさそうです。
バラコ:しかし、状況としては誰かが注文はしてるということになります。
    ここでポイントとなるのは、ロブスタさんの
   「息子が娘の誕生日に花束のひとつでも贈ってやれよと言っていた」というところです。
ロブスタ:どういうことだ?
ティピカ:息子が注文したのなら、親であるロブスタさんが払うべきなんじゃないの?
バラコ:ロブスタさんは息子さんにお願いしていないって言っていました。
ロブスタ:ああ、頼んでねぇ。
バラコ:そして、息子さんも「ロブスタさんの代わりに」ということを
    ティピカさんに言っていませんでしたね。
ティピカ:そうだけど……
バラコ:そうなると、息子さんが勝手にやったということになります。
ティピカ:でも、受け取ってるじゃない。だったら、払うのが筋じゃないの?
リベリカ:それについても資料を調べて確認はとってるんだけどね。
     勝手にロブスタさんの代わりに注文されたものをロブスタさんが受け取ったとしても、
     頼んだことを認めるってことにはならないのよ。
ロブスタ:ん…ん? ややこしいな。どういうことだ?
バラコ:つまり、受け取ったからといってロブスタさんが注文したってことにはならないってことです。
ロブスタ:お、おう……
ティピカ:だったら、お代は払ってもらえないってことなんですか?
バラコ:ロブスタさんからは、ね。
ティピカ:え?
リベリカ:注文をしたと思われるロブスタさんの息子さんには請求できますよ。
ティピカ:そうなんだ! 私はお金さえ払ってくれればそれでいいし。
バラコ:というわけで、ティピカさんがロブスタさんに
    払ってほしいというのは認められないという結論になります。
ロブスタ:俺は払わなくてもいいってことだな。
リベリカ:ええ。その必要はないわ。
ロブスタ:よかった! 
     勝手に送られて払うなんて、そんなん認められるわけねぇって思ってたんだよな!
ティピカ:ロブスタさんからは諦めるわ。息子さんに請求して、払ってもらうことにするわ。
リベリカ:ここでは「息子さんに払え」って命じることはできないのだけは注意してね。
ティピカ:えー、なんで?
バラコ:だって、ティピカさんの今回の主張は
    「ティピカさんはロブスタさんに払ってほしい」ってことですよね?
    それ以外については、判断できないんですよ。
ティピカ:そっか……
リベリカ:とりあえず、これで今回の件は決着ってことで。

バラコ:思ったよりもややこしい事件でした。
    え? ロブスタさんが代わりに払ってあげてもいいじゃないかって?
    残念ながら、ティピカさんが主張されていたこと以外は判断できない決まりなんです。
    腑に落ちないかもしれないですが、勝手に判断できるとすると収集がつかないというか、
    この場にいない人とかにまで影響がありますからね。そういうものなんですよ。
バラコ:準備した資料が気になるって? かなり専門的なお話になっちゃうので、また別の機会にでも。
​    おや、また争っている方たちが見えたようですね。

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