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光と影

比率 2:0:0(0:2:0)

台本を使う前に【利用上のルール】をお読みください。

台詞内容の一部や語尾などをいじれば0:2:0でも可能です 。

利用上のルールにかかわらず、性別にあうように語尾などを自由に言い換えても問題ありません。

光(♂)

影(♂)

光M:最近、毎日夢を観る。
   内容についてあまり憶えていないのはいつものことだ。
   珍しく夜に寝たからだろうか、ふと目を覚ました。
   部屋は真っ暗ではない。
   パソコンの電源ランプの青白い光がうっすら部屋を照らしている。

影 :やあ。

光 :誰だ!

光M:反射的に声をする方を見る。
   そこには人型の影が突っ立っていた。
   背格好は自分と同じくらいだろうか。

影 :どうして、此処に来てしまったんだい?

光 :どういう意味だ。

影 :そろそろ目が慣れてきた頃なんじゃない?
   あたりを見渡してみなよ。

光 :俺の…部屋じゃない!?

影 :そう。窓もない。ドアもない。
   さながら、牢獄ってところかな。

光 :なんでこんなところに……そうか! これは夢だ!

影 :間違いではないよ。
光 :どういう意味だ!    それに、こんなところに閉じ込めてどうするつもりだ!

影 :閉じ込める? 何を言っているんだい?
   ある意味では正解かもしれないけど。

光 :さっさと俺を解放しろよ!

影 :まぁまぁ。せっかくなんだ。
   ゆっくり話をしようよ。

光 :お前と話すことなんてねぇよ!

影 :そうかもしれない。
   でもね、僕は言わなきゃならないことがいっぱいあるんだよ。

光 :聞きたくねぇよ!

影 :それでもいいけど、戻ってどうするんだい?
   どうせ、することもない癖に。

光 :んなこたねぇよ! たとえば……

影 :ネトゲとか?

光 :!!

影 :ネットの世界は、さぞ居心地いいだろうね。

光 :何が言いたい(睨む)

影 :のめり込めば「俺TUEEEEEE」できるもんね。
   信者を集めて自分だけの王国を築ける。

光 :ああ、そうだよ!
   やりこんだらやりこんだだけ強くなれる!
   他の奴らに偉そうに言えるし、説教もできる!
   俺の言うことは絶対だ! 誰も逆らわねぇ!

影 :逆らったり意見する人がいればブロックしてしまえる。
   分が悪くなればアカウントを作り直すことすらできる。
   耳を傾けてくれるかもしれない相手でも、話し合いを避けることができる。
   自分の耳を塞ぐ方が遥かに楽だから。
   それに比べて現実は?
   ネットに嵌って会社クビになって。

光 :やめろ!

影 :共働きだったから、再就職するまではと我慢してた嫁も
   とうとう愛想尽かせて出て行った。

光 :うるさい!

影 :なんで居なくなったと思う?

光 :俺のことを理解できなかったからだろ。

影 :そうかな? じゃあ例え話をしようか。
   もし、自分は毎日働いていたとするよ。嫁は専業主婦。
   帰ってきても飯は作ってくれない。掃除洗濯もしない。
   家事を完全に放棄して、ネットばかりやっていたらどうする?

光 :離婚だよ、離婚!

影 :だろ? 君がやっていたことは、それと同じなんだよ。
   再就職活動はせず、家事もしない。
   やってることと言えばネトゲだけ。

光 :でも! 俺はずっと頑張ってきたんだ!
   少しは休息が欲しかったんだよ!
   現実逃避することすらダメだってのか!

影 :ダメなわけじゃないさ。
   ずっと全力で走り続けることができる人なんて、ごく一部なんだから。

光 :だったら問題ねぇだろ!

影 :会社クビになって引きこもり続けて、どれくらいになる?

光 :もうすぐ半年くらいになるか。

影 :違うよ。一年をとっくに超えてる。

光 :……。

影 :貯金も底を尽いてきたね。どうするつもりだい?
   失業保険の受給期間もとっくに終わってるよ?
   生活保護の受給申請でもする?

光 :それは……

影 :そうだよねぇ。あれだけ見下してたもんね、保護受けてる人。
   ネットで随分と叩いてたよね。

光 :でも、背に腹は変えられねぇし……

影 :甘んじるんだ。

光 :仕方ないだろ!

影 :本当にそう思う?

光 :ああ。

影 :さっきさ、ネトゲだとやりこんだだけ強くなれるって言ってたよね。
   どうして、現実の世界でもやりこもうとしないの?

光 :面白くねぇからに決まってんだろ!

影 :じゃあ、なんでゲームは面白いの?

光 :興味があったから、趣味だからだろ!

影 :子供の頃、化学に興味あったじゃないか。
   周期律表憶えるのが趣味とか言ってたよね。
   あれは見せかけの趣味だったの?

光 :ちげぇよ! あの時は面白いって思ったんだ!
   全部憶えきった時は達成感あったんだぜ?

影 :ランタノイド・アクチノイドまで暗記できるとは思わなかったよ。

光 :すげぇだろ。

影 :ああ。

光 :だから、大学は化学系に進学したんだ。
​   実験とか研究とか、結構面白かった。そりゃ苦労もあったし、泊まり込みなんてこともあったけどな。

影 :そうだったね。
   そしてなんとかメーカーに滑り込んだ。

光 :苦労したんだぜ?

影 :学生時代からつきあっていた彼女と結婚もした。

光 :ああ。

影 :そして、結婚生活も落ち着いた頃になると、君は目の当たりにする。
   自分よりも上には上がいるということを。
   いや、ずっと気づいてはいたんだ。けれども直視することができなかった。

光 :ああ……同じ人間とは思えなかった。
   勝てない相手のことを認めるのが悔しかった。

影 :だから嫉妬した。
   陰口を叩き、傷の舐めあいをする飲み会ばかりに行った。

光 :でも! そうじゃないと、やってらんなかった。

影 :その頃、ネトゲにのめり込むようになったね。

光 :そうだよ。自信が欲しかったんだ!

影 :ネットの中に求めようとしたんだね。

光 :いけないことなのか!

影 :そんなことはないさ。
   人は、自信を失ってしまうと生ける屍みたいになってしまう。

光 :だろ? 強くなればなるほどみんなが尊敬してくれる。慕ってくれるんだ。

影 :それは心地よかっただろうね。

光 :運営の目に留まって、いろんな恩恵受けられるようにまでなったんだぜ?

影 :本来は課金しないともらえない装備やらアイテムやら貰ったんだよね。

光 :そうそう。しかも、ゲームの利用規約について難癖つけてる人の相手までしたこともあるんだ。

影 :でも、結局は相手をブロックしたんじゃない?

光 :最後まで丁寧に相手する必要もねぇだろ。

影 :そして、周囲にはさも不愉快な思いをさせてごめんなさいと触れて回った。

光 :その方が、俺の株もあがるしな。

影 :結局、難癖つけた人は運営に直に問い合わせしたみたいだね。

光 :経緯をしってるからということで、対応を任せられたときは誇らしかったな。
   苦労したんだぜ? 向こうは法律がどうのとか言ってきやがるし。

影 :当たり障りない回答を会社に提出したときには誇らしそうな顔してたっけ。

光 :そらそうよ。

影 :でもそれに対してまた問い合わせされてしまったから、
   「個別に回答する予定はない」で逃げたんじゃない?

光 :だって、法律とかわかんねぇし。

影 :それでよかったのかな? 最終的には準公的機関に情報提供をしたみたいだけど。

光 :たかがゲーム会社の利用規約とかについてだし、相手にされねぇと思ったんだよなぁ。

影 :ところが、そこが本腰入れてしまった。

光 :あれには焦ったよ。

影 :どうなっちゃうんだろうね、そのゲーム。

光 :さぁなぁ。
   ただ、あの程度のことでサービス終了するとも思えねぇし、
   これまでどおり最強を維持するだけさ。

影 :それはそれですごいことだとは思うよ。でもさ、他のすべてを犠牲にしていいのかな。

光 :それは……

影 :自分の王国という居心地のいい場所に居座ることは可能かもしれない。
   それで、満足ならね。

光 :……。

影 :生活保護という制度も幸いにしてあるし。

光 :……それだけは、嫌だ。

影 :どうして? 遊んでても生きていけるんだよ?

光 :そうかもしれねぇけど、それはなんか……
   なんかプライドが許さねぇ。

影 :プライドはあったんだね。

光 :馬鹿にしてんのか?
   なかったら、挫折を覚えることもねぇよ。
   現実逃避する必要すらねぇだろ!

影 :そうだね。でも、プライドが高すぎて一歩が踏み出せない。
   違うかい?

光 :ぐっ……

影 :一度はメーカーに就職できたんだ。
   それが邪魔して、再就職活動に二の足踏んでるんじゃない?

光 :でもよぉ、中小企業なんざかっこ悪くて。

影 :それは中小企業の社長や社員を馬鹿にしてるって気づいてる?

光 :うっ……

影 :日本の産業を支えているのは大手企業だけだと思う?

光 :そんなことは……ない。町工場の凄い技術が世界に広まって……

影 :ちゃんと知ってるじゃないか。

光 :それは……ネットの……情報で……

影 :別に「ネット」という言葉を出すことに怯える必要はないんだよ。
   適切な利用をすれば、悪いことはないもんだよ。

光 :就活すりゃいいってことだろ?
   でも、その会社が合うかどうかなんてわからねぇし。
   実際俺が入社したとこだって……

影 :そりゃ判るわけないよ。
   就職説明会やら資料なんて表面的なことだけ。
   中に入ってみないと見えないことだらけ。
   それは体験で知ってるでしょ?

光 :まぁ……でも、どこに出せば

影 :(被りながら)いっつも「でも」ばっかりだね。

光 :……。

影 :興味を持ったところに色々出してみたら?
   そして実際に入って働いてみる。
   合わなかったら次を探すくらいの気持ちでもいいと思うよ?
   最近じゃ転職はマイナスイメージが昔に比べて薄れてるし。

光 :そりゃそうだけど、でも……

影 :それに、興味とかやりがいなんてのも、
   実際に仕事をやりながら見つけられるよ。
   見つけようって思えばだけどね。

光 :う……ん……でも……

影 :まだ迷いがあるようだね。

光 :……。

影 :でも、そろそろ決めてもらわなくちゃいけないんだ。

光 :何をだ。

影 :足元を見てごらん。

光 :? な、なんだこれは!

影 :ぽっかりと空いた穴。
   先は真っ暗で何も見えない。
   君には選んでもらうよ。この穴に飛び込むか、それとも此処に居座るか。

光 :居座ったらどうなるんだ?

影 :別に何も。
   ただね、ずっと閉じ込められることになる。
   いや、君にとっては天国かもしれないね。
   誰にも邪魔されることなく、パソコンとネットが使えるんだ。

光 :……飛び込んだら?

影 :さぁ。そんなのは分からないよ。
   ただ、新しい世界が待っている。
   もっとも、「現実という名の」だけど。
   ゲーム的にはハードモードかもしれないね。

光 :選ばないという選択肢は。

影 :ないね。選ばないということは、此処に居座るということだよ。
   どちらでも構わないさ。他の人は誰も責めない。

光 :つまり、俺自身が責める可能性はあるってことか。

影 :そういうこと。どうするの?
   プライドをどう使うの?

光 :……。

 (長い間)

光 :決めたよ。飛び込む。

影 :そっか。

光 :感想はそれだけかよ。

影 :褒めて欲しかった?

光 :え、いや……そういうんじゃねぇけど……

影 :リセットボタンはないよ。いいんだえ?

光 :ああ。

影 :行ってらっしゃい。

光 :じゃぁな。俺、もう一度頑張ってみるわ。

 (間)

影 :よく頑張ったね。
   もし、此処に残ることを選んでいたら、
   僕と君が入れ替わることになっていたんだよ。
   そして、魂の牢獄に囚われ苦しみ続けることになったんだ。
   仮初の虚栄心と自己満足だけを糧にね。

 (間)

光M:眩しい光で目が覚めた。
   あれは夢だったんだろうか。
   俺はどれくらいぶりだろうか、ネトゲを切断した。

光 :就職か……情報収集は必要っちゃ必要だ。
   それくらいは、ネット使っても……いいよな? 

 

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